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白い砂浜に一人の白髪の老人がわなわなと震えていた。空を鉛色の雲が覆い、海は荒波を浜に打ちつける。ぼろぼろの服を着た白髪の老人は勢い良く天に手を伸ばし、誰もいない砂浜で語り出す。
「とうとう…………見つけましたぞ!あの桃源郷とも呼べるかの地へと帰る手段がっ!!」
砂浜を抉るように乱雑に書かれた計算式はただ一つの答えを記し、風で転がる木の枝が砂浜をかけていく。
「ようやく、見つけましたぞ………この計算式があれば、私はかの地へと帰れる!この、ルートが示す答えこそ私が望んでいた最後の答えだ!!」
老人はよろよろと立ち上がり、荒れ狂う海へ足を進める。しわだらけの頬を涙が伝う。
「これで、ようやく行けますな…………村人に怪しまれても、私はこの日のためにわざと記憶を失った老人を演じてきたのです」
ありし昔の風景を思い、老人は胸を時めかせた。かつての名を捨て、記憶を失った老人として村に住み、桃源郷への道標を探していた。ようやく、その道標が見つかったのだ。嬉しくない筈がない。
ざぁ、と風が老人の白髪を踊らせる。老人は今まで村人には見せたことがないほどの満面の笑みを浮かべ、海の中へと入っていく。
「これも、あなた様との約束のため。今浦島が参りますぞ、乙姫様」
全ては、あなた様にもう一度会うために。
お題 桃源郷 自作自演 ルート
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