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「おい、この雪男」
「去勢するわよ童貞さん?」
「雪女、どうしてお前は僕が入る時いつもいるんだ」
「ラクダさん、それは完全にこっちの台詞。どうしてあなたは私のお風呂を覗きたいの?もしかして私に欲情してるの?」
「僕は覗くつもりはないし、それにお前の寂しい胸なんか見たくない」
「……あなた、どうして私が気にしてること知ってるのよ!?」
「胸があるやつとないやつとでは、声に差が出るんだよ。覚えておけ」
「そ、そんなわけ……あっ、わかった。本当は覗いたんでしょ?私の裸覗いてたんでしょこの変態!!私の胸見て笑ってたんでしょこのゲス野郎!!」
再び石鹸が降ってくる。僕はそれをうまくキャッチすると、すべて向こうに投げ返した。
「言いがかりはよせ。君が認めなければ、真実は一生闇の中なんだぞ?それでもいいのかな」
「こ、この変態……痛っ!せ、石鹸投げ返すなこの変態!こ、これ意外と痛い……」
女が頭を抑えている映像が脳裏に浮かぶ。僕はにやりと微笑んだ。
まるで夢の中のような心地よさ。
しかし、そんな僕を現実に戻すように、腕時計のタイマーが狭い浴場に鳴り響いた。
僕は急いで湯船から立ち上がり、彼女もまた立ち上がったのだろう、お湯が滴り落ちる音が同時に響いた。
「もう、時間だな。あっという間だ」
僕は声を投げかける。
「なんだ、もう時間なのね。まだ来て数分も経ってないかと思ってた」
彼女はそれを投げ返す。
「明日は、来る?」
彼女に尋ねてみる。
「難しいわね。明日から出張だから、ここに来る時間はないかも」
彼女は淡々と答えた。
「そっか、それは嬉しいな」
「私もよ。あなたの汚らしい声を聴けなくて、心の底から嬉しいわ」
それから、また少しだけの沈黙。
時間は刻一刻と迫っていく。
僕は、出て行こうとドアを開き、そして躊躇しながらも、壁の向こうへ声を投げかけた。
「帰ってきたら、また来るんだぞ」
ドアをぴしゃりと閉めて、更衣室に逃げ込んでしまう。
ドアの先からは、もう誰もいないことを知らない彼女が、しっかり言葉を返してくれていたのに、僕は受け取ることができなかった。
このくだらない照れ隠しのせいである。
今度はいつ会えるのだろうか。
今度はどんな話をしようか。
顔も知らない彼女とのおしゃべり。
仕事の合間の些細なお楽しみだ。
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