第1章

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今度は自分だろうと思った。赤いペンを握りしめて、忌々しいビデオカメラを見つめて宮司由真は語り出した。 『これは私、宮司由真についての話だ。怪異や怪談とは違うかもしれないが、どうせ、死ぬのならそれでいいだろう。懺悔と思ってくれ。 私は子供の頃、父から古いビデオカメラを譲り受けた。その頃の私は父を尊敬し、愛していた。だから、彼にもらった贈り物は私にとって宝物になった。 たくさんの物を記録した。撮影し、一時、一時の風景を画面の中に切り取っていき、メモリーの中にはたくさんの記録が詰まっていき、その日、私は写してはいけない物を写してしまったんだ。 父と見知らぬ女の不倫現場だった。尊敬する父、愛してくれていると思っていた父に裏切られたと思った私は、父を殺した。あっさりしたものだった。父が大切にしていたゴルフバットで彼が寝ているうちに振り下ろす。それだけで彼は死んだんだ』 宮司由真は両手の震えを抑えながら、自分の名前を真っ赤な線で消していく。そしてビデオカメラを取ると、フラフラと教室の外に出た。 廊下に出た宮司由真は、数多くの映像に出迎えられた。全て宮司由真が父を殴り殺す場面だ。何度も、何度も、何度も殺されていく。 「ハッ、ハハッ、お願いだ!! 殺してくれ!!」 しかし、何も起きない、永遠と続く映像の中で宮司由真は笑いながら死を求め続けた。 堤月子は、真っ赤に染まった名前を一つ一つなぞっていく。彼女達はみんな死んだだろう。堤月子はポタポタと流れ落ちる涙を拭い、ビデオカメラを向けた。もしかしたら、ここで何もしないでいたら生き続けることはできるかもしれない。 「一人は寂しいだから、みんなのところに行きたい」 堤月子は誰もいなくなった教室でポツリと言った 『メアリー・セレクト号、実際にあった海難事故、船員、全てがいなくなった未だ解かれていない最大の謎』 堤月子はスーッと名前に赤線を引いた。音はなかった。堤月子の身体は音もなく教室から消え失せ、ビデオカメラが誰もいなくなった教室を写し続けていた。 「はい、はい、はい。なかなか楽しい芝居だったね」 と誰もいなくなった教室に日本刀を持った少女が現れ、日本刀を抜刀し、教室の扉を引き裂いた。 「そう、思わない? 山田真優さん」 引き裂いた扉の向こう側、顔を潰された少女が佇んでいた。 「いいや、後藤百合、梓川美保、宮司由真、堤月子と呼ぶべきなのかな?」
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