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パシャン、と水が跳ねた。
靴底で踏んだ水溜まりから飛沫が上がると、私の足を濡らす。
冷たい、と思ったけれど、足は止めなかった。
全速力で走っているのだ。
空を飛ぶカモメが私の頭上を並走して、追い抜いてみろ、とでも言うかのように、悠長に飛んでいる。
そのカモメを避けるように、細かな路地へと爪先を向けた。
曲がる際、勢い余って壁にぶつかりそうになり、片手を付いて勢いを殺しながら、また走り出す。
潮の香りが漂う路地を駆け抜け、視界が広がるとその先に、郵便屋を見つけた。
真っ白なペンキが塗りたくられた壁に、空と同じ色をした青色が、屋根に塗られている。
案外小ぢんまりとしたその建物こそが、エトピリカ郵便屋だ。
私は無遠慮に大きな足音を立てながら、エトピリカ郵便屋の中へ足を踏み入れた。
「ねえ、誰かいる?」
雑然とした部屋を眺めながら、荒れた息を整える間もなく声を張り上げる。
中には、誰もいなかった。
あるのは、カウンターの上に散乱した紙の束と、その上に杜撰に置かれた見たことのない鳥のぬいぐるみだった。
鳥のぬいぐるみははっきり言うと、不細工だ。
「はい、はい、今行きますよ」
どこか遠くから、声が聞こえた。
返事は意外と早く寄越したが、その間延びした女性の声は、私が今、何故息を切らしているのか分からなくなるほど、ゆったりとしたものだった。
「はい、いらっしゃい」
声の主は、奥にある真っ白な扉から姿を現した。
その女性は、指定制服だろうか、必要以上にボリュームのあるスカートをした制服を身に纏っていた。色は全体的に、空色に近い。
髪は、いわゆるツインテール状にふたつに高く結われており、毛先がくるくると巻かれていて可愛らしかった。
年齢は、若いのだろうが、私よりは年上に見える。
「これ、出したいんだけど」
その女性の前に、白い封筒を突き出す。
彼女は封筒へ視線を落とし、それを両手で受け取ると、にっこりと微笑んだ。
「はい、お預かりいたしますね」
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