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はい、が口癖なのか定期文なのか分からないが、その女性局員の返事は、聞いていて心地の良い響きだった。
「あ、ちょっと待って」
今思い出したわけでもなく、もったいつけたわけでもないが、敢えて言えば強調するためにそう言って、女性局員を引き留める。
彼女はふわりとした動作で振り返り、首をかしげた。
私は、右手に持っていた本を片手で突き出す。
数にしたら100頁ほどの、手製の和紙が50枚ほど束ねられた古い本だ。
表紙の和紙は深い青色に染色されており、中の紙も、四隅が青色に染まっている。
海にでも沈めたら溶け込んでしまうのではないか、というくらい、本全体が深々とした青色をしていた。
「青色のもの。これでいいんでしょ?」
雨宿りをしている人へ傘を差し出すように、ぐん、と本を彼女へ押し付けた。
彼女はゆっくりとその本に視線を落とすと、まさに突き出された傘を見て当惑するように、目を大きく開く。
その大きな瞳をこちらに向けると、私が嫌悪感丸出しの顔をしているのにも気付かないのか、じっと見つめてきた。
「あなたが」
そう呟いた彼女の言葉で、はあ?と口をついて出そうになり、咳払いで誤魔化す。
そこで、我に返ったのか、とりわけ取り繕うこともなく、女性局員はふっと笑みを浮かべた。
「はい、承りました」
優しい声で言い、本を受け取りながら軽くお辞儀をすると、くるりと背を向け踵を返した。
「ちょっと、それだけ?」
慌てて、女性局員を呼び止める。
彼女はまた、ふわりと振り返った。
ボリュームのあるスカートが、それに合わせてゆらりと動く。
「私、どうしても助けたい人たちがいるの。本当にそんなので、過去に届けてくれるわけ?」
私は、問い詰めるように言った。
なかなか性格の悪い客だな、と自分でも思ったが、彼女は嫌な顔ひとつせず、むしろもっと優しい表情を浮かべて微笑んだ。
「はい、こちら、エトピリカ郵便です」
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