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佐竹(さたけ)元軍曹はどこか楽し気だった。口元には軽く笑みが浮かんでいる。これだけの大観衆の前で、タツオを倒せるのが愉快なのだろうか。足どりもまったく緊張していなかった。
すたすたと裸足(はだし)で近づいてくる。ただの養成高校生徒など敵だとも思っていないのだ。
タツオは唇(くちびる)をかみ締めた。「止水(しすい)」さえ使えれば、なんとかなるかもしれない。だが、天王山の決勝戦を目前に宿敵・東園寺(とうえんじ)崋山(かざん)に手の内を明かす訳にはいかなかった。八方ふさがりだ。
「養成高校では習っていない技を見せてやろう。戦場のチート技だ」
佐竹は握手でもするように右手を差しだしてきた。あの腕力でジャージの襟(えり)でも掴(つか)まれたら、一気に重心を崩されてしまう。倒されて体重を浴(あ)びせられるだけで、勝負は決まるのだ。タツオは腰を落し、防御するつもりで右手を伸ばした。
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