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「はい、なんとか」  クニが軍医の真似(まね)をして、タツオの左肩を叩く。折れた小指に衝撃が届き、顔をしかめる。 「おれからも頼むぜ。小遣(こづか)い三ヵ月分、おまえが勝つほうに賭けたからな。負けたら当分、学食でうどんか納豆定食しかくえなくなる」  いい気なものだった。ほとんどの生徒たちにとっては、この異種格闘戦は学園祭の気晴らしに過ぎない。進駐軍から払われる月給を賭けて、ギャンブルを楽しんでいるのだ。この戦いが、決戦兵器「須佐乃男(すさのお)」の正操縦者を選ぶ天王山だと知らされているのはひと握りの上層部だけだった。東園寺崋山(かざん)と逆島(さかしま)断雄(たつお)の進駐官としての未来、五王重工と東園寺連合の権力の未来、日乃元(ひのもと)の本土防衛の未来という三種の複雑に絡(から)みあった未来に決定的な影響を及ぼす一戦だった。
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