昇降口

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「夕。怒ってる?」 「何も怒ってません。」 そうです。私は何も怒っていないのです。怒る権限などないのです。 「いやいや、怒ってるじゃん。」 「怒ってません。」 怒っていいのは、理不尽な事をされた時、体に故意の痛みを加えられた時、そして嘘をつかれた時と決めてあるのです。 「いやいや、完璧怒ってるじゃん。」 「怒ってません。」 「今日の昼、日替わりパン食べたい?」 「怒ってません。」 「やっぱ、怒ってんじゃん。」 「え、いや、これはその…」 言葉と言うものは、時に脆いもので気持ちをそのまま表してくれないこともあり、時に言葉以上の意味を相手に伝えてしまうこともあるのです。 今、私と優さんは昇降口のいつも待ち合わせで使う右側にある太い柱に体を預けながら二人並んでいます。 二人でこうやって並んで同じ壁に自分の体重を預けると言う行為に、幸せを感じるようになったのは最近で、それまでは緊張してこの時間を楽しむ事ができずにいました。
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