第二章

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男はそう言うと、僅かな気配も消してしまった。 静寂。 いなくなったのだろうか。 分からない。 すると突然、ひやりとした冷気が、隣から流れた。 風?いや、違う。 これは…きっと 「ーーこんな夜更けに夜這いとは、感心できませんね」 殺気だ… 「安心しなよ。 田舎娘に夜這いするほど、困ってないんでね。」 くっくっと喉の奥で笑う声が、闇の中響く。 男は、消えてしまっていた訳じやなかったらしい。 「にしても…こいつを守るとかなんとか、俺の前で豪語したわりにゃ、些か警備が甘すぎるんじゃねぇの?…総司。」 下手すりゃ子供でも入れるさ、と彼は付け足す。 歌うような、声色だった。 真の心情なんて決して含ませない。 しかし、巧みに操られた言葉は、その言葉を向けられた相手に執拗に絡みつく。 「言いたいことは、それだけですか」 部屋の温度が一段と下がった。 空気が、重い。 「おっと、抜くなよ。俺は此奴に指一本触れてねぇんだからさ」 「……」
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