第二章

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鈴にもう少しで手が届く。 そう思った時、 「ーーなにしてんの」 また、微かな声が部屋に響く。 いや、響くという表現は間違いかもしれない。 声は本当に小さくて、よく耳を澄まさないと、暗闇の中に溶けてしまいそうなほどだった。 部屋に響いているんじゃない。 耳に、溶け込んでくるんだ。 なんでもない言葉でも、心の内に染み込んでくるんだ。 本当に、不思議な声。 「鈴…か…総司らしいな」 ーー貴方、一体だれ そう叫びたかった。 でも、出来ない。 暗闇だから、筆で言葉を書くわけにもいかない。 見えないんだから。 「…騒ぐな、煩いからさぁ」 ーーう、煩いって…私、喋れないのに。 「だから、黙れって」 不意に、視界の暗闇が一層濃くなる。 誰かに顔を覗きこまれたのだと気付くのに、少し時間がかかった。
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