第二章

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「終わりだ。 これ以上やっても酷くなるだけだ。」 「そんなことない! お願い、次はきっと」 「梅乃」 東がゆっくりと、私の名前を呼んだ。流れるように、両手を組む。 わずかに口角が上がっていた。 「あ…」 この癖…知ってる。 「今日は終わりだ」 それは、東が本気で怒っている時の癖だった。 私は東から視線をそらして、台本を握りしめる。 自分の不甲斐なさに、嫌気がした。 「ごめん…」 部員が、まばらに部室から去っていく。 そしてついに2人きりになった。 「ごめん、東…」 東は窓辺の机で、静かに台本を見直している。 部員の誰よりも使い古された台本は、もう文字が読めないほど、びっしりと書き込まれていた。 役者一人一人の癖、間、動き、タイム、演出案…たくさんのことが、東の台本にはあった。 《過去からの手紙》 東が書いた脚本。 ある日主人公ソラに届いた、差出人のわからない一通の手紙。 手紙を中心に繰り出される、過去と今と未来を描いた物語。 そして、私はその主人公を他でもない東に、任命されていた。
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