第1章

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 あと一人! あと一人!  さあ9回のウラ一打逆転! この2塁ランナーを返すことができればサヨナラです! しかしマウンドに立つのは今大会注目株の怪物投手!! さあどうする9番バッター!!  当時、あの打席に立っていた自分は、バットを構えながら脳内でこの実況を始めていたことを思いだした。あの時点で半ばあきらめていたのだと思う。  今でも金属バットの重みは忘れられないし、あの夏のことは昨日のことみたいに覚えている。でも、この光景がフラッシュバックされてしまうという事は、その時に似た緊張感を抱いているからなのだろう。  そうだ。同じだ。右手に自然と力が入って、直線に先に投げる人を見据え、白いものが来るのをじっと待つ。視界がちょっと揺らいで、ただ来た物体を捉えるだけの存在になるため、集中力はフルアクセルを蒸かす。  さあまったく手が出ません!! 140キロ越えのストレートは目で追うだけで精一杯です。気が付けばフルカウント! おそらく次で勝負は決まるでしょう!!  ああ、そんなことも言ってたな。おそらく次で勝負は決まるでしょう。私の空振りで。  高鳴りが限界を超すと、周囲の喧騒は不思議と一切耳に入らなくなる。ゾーンというものだが、今の私はおそらく、その状態だった。  投げられた。今、140キロを超す白いものが私の胸元あたりに向けて疾走してきた。  本能的だった。右手の箸は竹を半分に割った台の上に降り立ち、超高圧で流れてくる激流とそうめんを2本のフォルムで受け止めた。  捉えました! 140キロ超のストレートを真っ向勝負でジャストミートしました。高い軌道は白い線を残していきます!!  私の箸に、高速で流れてきたそうめんが伸びていた。
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