第1章

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 「え?」  「自分以外の物ならなんでもも受け入れるくせに、どうして自分は受け入れられないんだ? お前」  「そう言われてみれば……」  「お前の友達だって同じだろう? 今更お前にウサギの耳が生えてこようが、ワニのしっぽが生えてこようがそれで態度が変わったりはしないはずだ」  「あははは……先生って以外に発想が貧相なんですね」  ウサギ耳とかワニのしっぽが生えた自分を想像してみる。ちょっとかわいいかも。  「そうやって笑っている方がいい。笑顔には力が宿り、悪いものを遠ざける」  「そうなんですか?」  「……物語の中のお姫様はたいていどっかの王子とくっつく。だが、それがわかっているのに命がけでナイトは姫を守る。なんでだか知っているか?」  「え? 偉いから……ですか?」  「笑って欲しいからだ。幸せになっていつまでも笑顔でいて欲しいんだ」  「曖昧な理由ですね。そんな理由で命をかける人なんて物語の中だけですよ」  「そうかもな……だが、物語の中だけにしろ、笑顔にはそれだけの力があると言うことだ。お前も笑っていれば少しはいいことがあるだろう」  「……そうだといいですね」  ここのところ嫌なことばかり続くから、本当にそうだといいなと思う。  「下を向くな……病気の時は不安になりやすい。不安なときは悪い物を引き寄せる」  「…………」  「少しは気分が良くなるおまじないでもしてやろうか」  「トゥレイス スファーム レファーシス アミヌ……」  私の目の前で、先生は何か呪文を唱えるように指で不思議な模様を描く。  円を描くようでいて強く、直線を描くようでいて滑らかで優しい不思議な模様……。  「……7の喜びと22の歌と56の光をこの娘に……手を出せ」  「こうですか?」  まるで神聖な儀式でも行うように、差し出した私の手を恭しく持ち上げる先生。  「フロディア・ダァムサ…………チュッ……」  「なっ、何するんですかっ!」  驚く私にこともなげな先生。  「簡単なおまじないだと言っただろう?」  「で、でも……き、キスなんて……」  少しだけ冷静になって、深呼吸をする。  ……手の甲にキスされるなんて……なんだか本当にお姫様になったような気分。ちょっとこそばゆい。  「手ぐらいで狼狽えるな。それとももっと別の場所が良かったか?」
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