第1章

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 真面目な顔で恥ずかしいことをしたと思ったら、私をからかうようなことを言う、やっぱりつかみ所がない。  「もうっ……先生は一言多いんです」  そう言って、戻した右手に左手を重ねる。  じわりと広がる清涼感……なのになんだかとても温かい……。  「不思議ね。先生にキスされた場所からどんどん優しくて幸せな気持ちが広がっていくみたい……」  「どうだ、なかなか効くだろう?」  そう言って嬉しそうに柔らかく微笑む先生。先生って、こんな風に笑うことも出来るんだ。ちょっと意外。  「先生……今日は優しいんですね」  「お前が病人だからな」  「じゃ、私……ずっと病気でいたら、先生にからかわれたりとか、馬鹿にされたりとかしないのかな?」  「妙なことを言わずにそろそろ休め……」  一瞬目があった。  あれ……この感覚ってどこかで……。  「おやすみ……お姫様」  「おはよう、かなた。もう動いて大丈夫なのかい?」  「うん、沢山眠ったら随分気分がよくなったみたい」  「そうか、それはよか…………んっ……」  台所へ入ってきたフロリアがぴたりと足を止める。  「どうしたの?」  「……かなた、今日エクソシストに会った?」  眉を潜め、あからさまに嫌な顔をした。  「あ……今日、お見舞いに来てくれたのよ。テストのプリントとか持って」  「そうか、僕たちが夕飯の買い物に出ている時か……本当に油断のならない奴だね」  ますます顔を曇らせるフロリア。  「あ、でも、ちょっとはいいところもあるっていうか、不安とか、悪いものが近づかなくなるおまじないもかけていってくれたし」  「悪いものねぇ……」  警戒したような瞳を向けてくるフロリア。  「どうかしたの? フロリア」  「悪いんだけど、僕に近づかないでくれるかい?」  「えっ?」  「どうやら悪いものに僕らも含まれるらしいね。君の周りから、とびっきり嫌な守護魔法の気配がする」  「えっ……そんな」  「おっ、かなた。起きたのか? ……うっ」  「…………あ」  フロリアに続き、台所に集まってきた皆も露骨に嫌な顔をする。  「どうやら、嫌な気分になったのは僕だけじゃないみたいだね」  「おい、かなた……どういう事だよ……」  「……かなた、さん」  
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