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「あのさ、動き回るなら、服着てくんない?」
僕は、目の前にいる彼女に、そう声をかけた。
正直、目のやり場に困ってしまう。
もともとかわいい顔をしてるのに、化粧をしてるからますますかわいくなってる、ムダにスタイルのいい彼女の、どこを見ていいか分からない。
「えー、さっきまで真剣な眼差しで、アタシの身体見てたくせにー」
悪戯っぽく笑いながら、楽しそうに彼女は言う。
「あれは、絵を描いてたからさ…」
「それなのに、今は恥ずかしいの?意味わかんない」
楽しそうに笑いながら、彼女は僕を見る。
その表情は、見るたびにくるくる変わって見ていて楽しい。
「そうやって、そんな恰好で楽しそうにできることの方がすごいと思うけどな」
そう言って、僕は台所に逃げた。
コーヒーを淹れるという名目の元。
その間に、彼女は服を着るだろう。いつものことだ。
でも、今日淹れるのはコーヒーじゃない。
彼女が好きらしいフルーツフレーバーの紅茶。
僕にはそのおいしさは分からないけど、彼女の友達がいうには、彼女はそれが好きで、家ではよく飲んでるらしい。
彼女に喜んで欲しくて、こんなことをしてる。
僕は、彼女が好きだから。
彼女は、人気がある。
かわいいし、スタイルもいい。
どうして、こうやって、僕の絵に付き合っていてくれるのかは分からない。
あの日、勇気を出して声を掛けたとき。
どうして、彼女が僕の絵のモデルになってくれたのか、分からなかった。
僕が自分のコーヒーと彼女の好きだという紅茶を入れて、戻ったとき、彼女はきちんと服を着て、ソファへ座っていた。
いつもこんな感じだから、疑問には思わない。
「もう、逃げなくったっていいじゃん」
彼女は笑いながら、僕を迎える。
いつも笑っている彼女。いつも明るい彼女。
彼女は泣いたりしないんだろうか?
「いや、絵を描いているときと、終わった後じゃ違うんだよ」
「えー、そんなこと言わないでよー。傷ついちゃうじゃん」
「違うって。魅力的だから、つい…さ」
「なーに、マジになってんの?冗談だよー、じょ・う・だ・ん」
彼女は心底僕の反応を楽しそうにすると、コーヒーちょうだいというように、手を出してくる。
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