4人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女に出すために新しく買ったカップは、猫の形をしていて、三角の耳がぴょこんと出てるものだ。
猫が好きすぎて、彼女の部屋は猫グッズで埋まってるらしいというのは有名な話で、それを噂で聞いた僕は、普段は行かないような雑貨屋に行って、買ってきた。
とても、恥ずかしかったけど。
それを、手渡しながら、「今日もお疲れ様」と言った。
「いいよ?あたし、絵が完成するの楽しみだしー」
嬉しそうに、カップを受け取りながら、返事をする彼女。
「あっ、今日のコーヒーじゃないじゃん。この香り、あたしが好きな紅茶じゃん。うっそ、すっごく嬉しいんだけどー」
瞳をキラキラさせながら、彼女は笑う。
「ありがとねっ」
その笑顔は、今まで見た彼女の表情の中で、一番綺麗だった。
「モデル、嫌じゃないの?」
彼女の笑顔を見ながら、つい言ってしまった一言。
僕がずっと抱き続けている疑問だ。
「何でー?」
不思議そうに、彼女は首を傾げて問う。
「いや、だって普通のモデルじゃないし」
「あー、不安なんだー?あんな絵書いておいてー?」
彼女は僕の絵を、チラッと見ながら言った。
僕が書いているのは裸婦画。だから、モデルを頼む勇気もないけど、了承もなかなかもらえない。
でも、正直、裸婦画が一番芸術的だと、僕は思っているから。
「そんな言い方しなくても…」
彼女のペースについていけない自分が悲しくなる。
僕は空気が読めないんだろうか?
「ごめんごめん、そうじゃなくてねっ」
その言葉に彼女の方へ顔を上げる。
「あたし、好きだったの」
「え?」
「好きな人から、声かけられてさ、モデルになってほしいって言われて、でも、素直になれなくって、それで、裸婦画で服脱いでもらうなんて言われて、ついさ…」
声を掛けたとき、言われた言葉。
『安い絵だったら、許さないからねっ』
その言葉で、二人の声が重なる。
「やっぱ覚えてるよね」
「まあ、そんな言葉でオッケー出されるなんて思わなかったからさ」
「あれは勢いっていうか…」
あははーと笑いながら、言う彼女に、僕も言う。
「じゃあ、あのとき既に両想いだったんだね」
気づかない内に、僕も笑っているようだ。
「改めて言うね。僕と付き合ってもらえませんか?」
そう言うと、彼女は頷いてくれた。
積極的な彼女からは考えられないけど、照れているのだけはよく分かった。
最初のコメントを投稿しよう!