君を描く魔法

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彼女に出すために新しく買ったカップは、猫の形をしていて、三角の耳がぴょこんと出てるものだ。 猫が好きすぎて、彼女の部屋は猫グッズで埋まってるらしいというのは有名な話で、それを噂で聞いた僕は、普段は行かないような雑貨屋に行って、買ってきた。 とても、恥ずかしかったけど。 それを、手渡しながら、「今日もお疲れ様」と言った。 「いいよ?あたし、絵が完成するの楽しみだしー」 嬉しそうに、カップを受け取りながら、返事をする彼女。 「あっ、今日のコーヒーじゃないじゃん。この香り、あたしが好きな紅茶じゃん。うっそ、すっごく嬉しいんだけどー」 瞳をキラキラさせながら、彼女は笑う。 「ありがとねっ」 その笑顔は、今まで見た彼女の表情の中で、一番綺麗だった。 「モデル、嫌じゃないの?」 彼女の笑顔を見ながら、つい言ってしまった一言。 僕がずっと抱き続けている疑問だ。 「何でー?」 不思議そうに、彼女は首を傾げて問う。 「いや、だって普通のモデルじゃないし」 「あー、不安なんだー?あんな絵書いておいてー?」 彼女は僕の絵を、チラッと見ながら言った。 僕が書いているのは裸婦画。だから、モデルを頼む勇気もないけど、了承もなかなかもらえない。 でも、正直、裸婦画が一番芸術的だと、僕は思っているから。 「そんな言い方しなくても…」 彼女のペースについていけない自分が悲しくなる。 僕は空気が読めないんだろうか? 「ごめんごめん、そうじゃなくてねっ」 その言葉に彼女の方へ顔を上げる。 「あたし、好きだったの」 「え?」 「好きな人から、声かけられてさ、モデルになってほしいって言われて、でも、素直になれなくって、それで、裸婦画で服脱いでもらうなんて言われて、ついさ…」 声を掛けたとき、言われた言葉。 『安い絵だったら、許さないからねっ』 その言葉で、二人の声が重なる。 「やっぱ覚えてるよね」 「まあ、そんな言葉でオッケー出されるなんて思わなかったからさ」 「あれは勢いっていうか…」 あははーと笑いながら、言う彼女に、僕も言う。 「じゃあ、あのとき既に両想いだったんだね」 気づかない内に、僕も笑っているようだ。 「改めて言うね。僕と付き合ってもらえませんか?」 そう言うと、彼女は頷いてくれた。 積極的な彼女からは考えられないけど、照れているのだけはよく分かった。
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