片端の花嫁

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 この雷雨が訪れたのと時を同じくして、その依頼は舞い込んだ。  短い手紙だった。詳しい内容は記されておらず、ただ『品をお送りします』とだけ。きっと祖父が亡くなったことをまだ知らないのだろう。  祖父は春が来る前に他界した。父はとうに鬼籍の人であり、孫である僕がその遺品整理の為に海を渡ってきたというわけだ。  外国人の父を持つとはいえ、ずっと日本で生まれ育ってきた僕は簡単な日常英語くらいしか話せない。読み書きはかろうじて高校レベルと言えれば良いほうなんじゃないだろうか。 そんな不慣れな英語での返事に苦戦すること三日。祖父が亡くなったこと、手紙にあった依頼はお受け出来ないと相手に伝えられないまま今に至る。  窓ガラスには一時休んでいた雨足が再び甦り、ナイフで刻むかの勢いで激しく打ち付けている。  このぶんだと郵便だってろくに届きはしないはず。  言い訳と諦めを一緒に紙に丸めた瞬間、カッと稲妻が走った。部屋と外の光が反転した途端、ガタンと何かが玄関に落ちる音がした。
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