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監督がくるりとこちらを振り向いた。
「やってみない?」
「…え?」
一瞬、彼が何をいっているのか理解できず戸惑う。
「謎の女、コンテ描いてるときからアナタの声イメージに合うなあって思ってたんだよね。
どう?」
ニコニコしながらあっさりと私に告げる監督に、その時何と返事を返したのか、ハッキリとは覚えていない。
いえいえ、私なんて、素人ですから。 私、裏方ですから、スタッフ。
できませんよ、無理ですよ、だってほら、あそこにあんなにたくさんプロの声優さん方がいらっしゃるじゃないですか。
プロの皆さんがせっかくオーディションでいらっしゃってるのに、私なんかが出てったら申し訳ないじゃないですか。
色々と言い訳をつけて、この日私がマイク前に立つことはなかった。
でも、本当は気づいていたんだ。
あの場所に、マイクの前に立ちたいという思いが、胸の奥に波立ったことを。
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