第1話

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「……い…」 「え?」 何か呟く声が聞こえたが、小さすぎて分からない。 表情を見ようにも、俯いているせいで、長い前髪が目隠しとなり、よく見えなかった。 「…口に合わなかったのなら…」 そう言いかけて、やめる。 ゆっくりとカップを置いたそいつは、左手でフォークを取り、震える手でローストビーフを絡めとった。 口に運び、咀嚼し、何も言わずに今度はカルパッチョへと手を伸ばす。 ただ、黙々と食べるその姿を、俺はじっと静かに見つめた。 …暫く経ったあと、 目の前の皿がみな空になっていることに驚く。 「…2人分あったのに、腹が空いてるとはいえ、そんな細身でよく食べれたな」 嫌味じゃない、 全部食べてくれたのかという嬉しい気持ちで、そう呟く。 「デザートの、ブッシュドノエルというケーキもあるんだが…食べるか?」 相変わらず表情が見えないそいつに、そう声をかけると、〝猫〟は小さくこくんと頷いた。
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