16人が本棚に入れています
本棚に追加
「……い…」
「え?」
何か呟く声が聞こえたが、小さすぎて分からない。
表情を見ようにも、俯いているせいで、長い前髪が目隠しとなり、よく見えなかった。
「…口に合わなかったのなら…」
そう言いかけて、やめる。
ゆっくりとカップを置いたそいつは、左手でフォークを取り、震える手でローストビーフを絡めとった。
口に運び、咀嚼し、何も言わずに今度はカルパッチョへと手を伸ばす。
ただ、黙々と食べるその姿を、俺はじっと静かに見つめた。
…暫く経ったあと、
目の前の皿がみな空になっていることに驚く。
「…2人分あったのに、腹が空いてるとはいえ、そんな細身でよく食べれたな」
嫌味じゃない、
全部食べてくれたのかという嬉しい気持ちで、そう呟く。
「デザートの、ブッシュドノエルというケーキもあるんだが…食べるか?」
相変わらず表情が見えないそいつに、そう声をかけると、〝猫〟は小さくこくんと頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!