第1話

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まだ食べられるのか、と思いながらも 〝猫〟のその反応が嬉しくて 冷蔵庫にあるケーキを用意すべく、席を立ったとき くいっ、とシャツの袖を後ろから引っ張られた。 そんなことをする奴は、今この家で1人しかいない。 「…どうした?」 振り向き、 顔を上げた〝猫〟の表情を見て、驚いた。 「……おま、え…泣いてんのか?」 ぽろぽろと瞳から溢れる雫が、そいつの頬を濡らしていた。 「…りょ…り」 「…え?」 「…料理、すごくすごく、美味しかったっ」 ご馳走さまでした でもケーキも食べる そう言って、頬に伝う涙とは反対に、スッと柔らかく細められた目に眩しい笑顔を浮かべる、拾った〝猫〟 そんな〝猫〟を一瞬、 可愛い と思ってしまった俺は、 このときすでに、こいつに惹かれていたのかもしれない。 …そんなこと、ぜってぇ言わねぇけどな?
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