第1章

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でも、私はその理由を詮索するつもりは今のところない。面倒だからと思っていると宮島がお腹を抑えていた。さすがに厳しかったかとちょっと心配になったが、 「いっぱい歌ったから、お腹すいた」 あらっと転びそうになった。 「何時間、歌ってたのよ。あんたは!!」 そこで喉が枯れるじゃなくて、お腹がすいてしまうのは、宮島だけだろう。たぶん。 「いただきます」 腹ペコの宮島を連れて、私は近くのたこ焼きを売っている屋台に来ていた。安いがボリュームはあるので、腹ペコの宮島も満足してくれるだろう。ファミレスやコンビニでも良かったけれど、その前に宮島が力尽きそうだったから、ここにした。 「ちゃんと冷ましてから食べるのよ」 屋台の隣に置かれた、即席の椅子に座り、熱々のたこ焼きを頬張る、宮島に言った。たこ焼きは美味しいから好きなんだけれど、できたてはとても熱くて、何度か火傷したことがあったからついつい宮島に注意してしまう。 「ん? にゃに?」 と私の心配をよそに宮島は熱々のたこ焼きを食べていた。熱くないらしい。食欲のせいか、それとも宮島がおかしいのか。どっちでもいいだ。 「口に食べ物を入れたまま話さない」 「んっ」 宮島が短く返事をして、プスッとたこ焼きを持ち上げて、クルクルと回して表面を見ていた。 「何してるの?」 「私に透視能力があれば、たこ焼きの内部が見えるのに」 「見なくても、中にあるのはたこよ」 「もしかしたら、王家の指輪が入ってるかも」 「入ってない、入ってない」 そもそも、どうやったらたこ焼きの中に指輪が入るんだ。 「うーっ、夢がない。こういう何気ない出来事から非日常の扉は開くのに」 「ごめんなさいね。私、現実主義者だから」 と答えながら私の小指に繋がる赤い糸を見た。非日常の扉というのなら、これだってそうに違いない。人と人を繋ぐ不可視の糸、私にしか見えない赤い糸。 「現実主義者なあなたには、これをあげる」 宮島が差し出してきたのは、最後になったたこ焼きだった。 「全部、食べていいんだけど」 「いい、私、お腹いっぱいだから、はい」 うむを言わせない無言の圧力に、私は負けた。 「あーん」 宮島があーんと言う。女の子同士だけれど、ちょっと恥ずかしい。パクッと恥ずかしさを隠すようにたこ焼きを食べた。味はわからなかった。 「美味しい?」 「んっ、美味しいよ」
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