0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
でも、私はその理由を詮索するつもりは今のところない。面倒だからと思っていると宮島がお腹を抑えていた。さすがに厳しかったかとちょっと心配になったが、
「いっぱい歌ったから、お腹すいた」
あらっと転びそうになった。
「何時間、歌ってたのよ。あんたは!!」
そこで喉が枯れるじゃなくて、お腹がすいてしまうのは、宮島だけだろう。たぶん。
「いただきます」
腹ペコの宮島を連れて、私は近くのたこ焼きを売っている屋台に来ていた。安いがボリュームはあるので、腹ペコの宮島も満足してくれるだろう。ファミレスやコンビニでも良かったけれど、その前に宮島が力尽きそうだったから、ここにした。
「ちゃんと冷ましてから食べるのよ」
屋台の隣に置かれた、即席の椅子に座り、熱々のたこ焼きを頬張る、宮島に言った。たこ焼きは美味しいから好きなんだけれど、できたてはとても熱くて、何度か火傷したことがあったからついつい宮島に注意してしまう。
「ん? にゃに?」
と私の心配をよそに宮島は熱々のたこ焼きを食べていた。熱くないらしい。食欲のせいか、それとも宮島がおかしいのか。どっちでもいいだ。
「口に食べ物を入れたまま話さない」
「んっ」
宮島が短く返事をして、プスッとたこ焼きを持ち上げて、クルクルと回して表面を見ていた。
「何してるの?」
「私に透視能力があれば、たこ焼きの内部が見えるのに」
「見なくても、中にあるのはたこよ」
「もしかしたら、王家の指輪が入ってるかも」
「入ってない、入ってない」
そもそも、どうやったらたこ焼きの中に指輪が入るんだ。
「うーっ、夢がない。こういう何気ない出来事から非日常の扉は開くのに」
「ごめんなさいね。私、現実主義者だから」
と答えながら私の小指に繋がる赤い糸を見た。非日常の扉というのなら、これだってそうに違いない。人と人を繋ぐ不可視の糸、私にしか見えない赤い糸。
「現実主義者なあなたには、これをあげる」
宮島が差し出してきたのは、最後になったたこ焼きだった。
「全部、食べていいんだけど」
「いい、私、お腹いっぱいだから、はい」
うむを言わせない無言の圧力に、私は負けた。
「あーん」
宮島があーんと言う。女の子同士だけれど、ちょっと恥ずかしい。パクッと恥ずかしさを隠すようにたこ焼きを食べた。味はわからなかった。
「美味しい?」
「んっ、美味しいよ」
最初のコメントを投稿しよう!