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静かな控室、
いつものように、
スケジュールの確認をする憲ちゃんが、
時折システム手帳を捲る音だけが響いている。
あたしはハーブティーをゆっくり飲んだ後、
机に両肘をついて瞼を閉じたままでいた。
不意に、
モデルになったばかりの頃のことを思い出した。
あの頃は、
大人の社会で働いてるなんて自覚なんか全くなくて、
まだ学生だったし、周りの大人たちに甘えてばかりだった気がする。
それをよく、
さっきみたいに憲ちゃんに指摘されて、
16になったばかりで生意気盛りのあたしはよく反発してたっけ。
でも、
あの頃は、
憲ちゃんだって23でもっと若くて頼りなかったし。
「ふっ」
色々思い出してたあたしは堪え切れずに吹き出してしまった。
「……ん? なんだよ? 思い出し笑いかよ…」
「ん。ちょっとね。10年前はあたしも憲ちゃんも若かったなと思って…」
「あ? なんだよ? そんな昔のこと振り返ってないで、そろそろ時間だ。行くぞ?」
「あ、はい」
もうすっかり苛立ってた気持ちも落ち着いて、
いつものように撮影へと臨むことができたのだった。
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