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空が堕ちてくる風景を何度も繰り返して見ている。蒼白い光と共に箱庭に向かってきてエルルは眼を両手で覆う。真っ暗な世界を体験してからゆっくりと手と手の合間からもう一度空を見る。
迫ってきた蒼白い光も空も元の位置に戻っていく。何度見ても何度感じてもこの風景はエルルを苦しめていた。
箱庭に風が吹き、エルルの周りには蝶が集まってくる。エルルは空の先を、堕ちてくる光の正体を知らない。
知らないことが多すぎて、想像力だけが逞しく育つ。空はなぜ青いのか、自分の瞳が蒼いからだろうか。太陽が眩しいのは自分の髪の毛と同じ琥珀色だからだろうか。人は皆、世界を何色だと認識しているのかなど空想や疑問は絶え間無く浮かんでいる。けれどもエルルが答えを知ることはない。
エルルが入り込んだ箱庭は、檻でも鳥籠でもない温室であった。
ピンクの薔薇と赤い薔薇の花弁が咲き乱れる箱庭にエルルはひとり座っている。
大きな噴水には薔薇の蔦が絡まっている。噴水は噴水の機能を果たしていない。水が出ているところを見たことがない。なぜそんな噴水をこんな場所に置き去りにしているのかとエルルは思う。だがそれ以前に箱庭は空さえ堕ちて来なければ、エルルの部屋のようなものなのだ。
エルルの指先に蝶が止まる。風が吹くと蝶は羽ばたいてどこかへ消えてしまった。
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