プロローグ

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 思い出したように空が降ってくる。エルルは慌てて眼を覆う。この繰返しだと知りながらエルルは箱庭から逃げることをしなかった。 「エルル」  エルルが振り替えると箱庭の入口に青年が居る。青い上着の合間から白いワイシャツ。青色のズボンと黒の軍靴は、この大陸を治めている君主が選んだ私服だった。赤茶けた髪の毛に褐色の瞳、肩ベルトで吊るしたレイピア。しっかりとした顔立ちに優しい瞳がエルルを見詰める。 「クラウン、仕事はもういいの?」  エルルは漸く立ち上がる。堕ちてきた空の圧迫感は消えていた。 「今日は終わり。天気も良いしなにか食べに行こうか」  クラウンの提案にエルルは頷いて銀の鎖に繋がれた懐中時計を眺める。丁度、昼食の時刻であった。  毎日の日課だ。クラウンとエルルは箱庭を出た。箱庭の外はアークトルス城の中庭だ。エルルはアークトルス城に使えているメイドだった。箱庭に入ることは本来禁止されているのだがエルルはこの箱庭が気になって仕方がなかったのだ。
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