第9話

13/38
前へ
/38ページ
次へ
ズキズキと痛みを増す左頬。 口の中にはうっすらと鉄の味。 底に近い角の部分が当たったのだろうか。 私の左頬は、滅多に体験することのできないような痛みを感じていた。 「……ゆるせない」 頭上から、ポツリ。と声が落とされる。 「許せない」 ヒールが低めの白いパンプス。 シワのない白いパンツ。 淡い水色のストライプのシャツ。 趣味の悪いスカーフ。 醜く歪んだ顔。 怒りと悲しみが混ざったような、その顔をボンヤリと見上げた。 「許せないっ」 革製のバッグが振り上げられる。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2631人が本棚に入れています
本棚に追加