第9話

28/38
前へ
/38ページ
次へ
「本当に、そこにあったんですか?奥様がおっしゃっている『不倫の証拠』というものは」 乾課長の手にある封筒に視線を向けた後、胸ぐらを掴まれて乱れた私のブラウスに手をやり、それを直す。 「神崎さん。あなた、私が嘘を言っているとでも言いたいの?」 「いいえ」 どこか訝しげに私達を見る奥様の言葉を遮った神崎くんは、私の胸元から手を引いた時、ふと何かに気がついた。 「ある筈がないからです」 小さなランチバッグの中にあるプチトマト。 「だって、そうでしょう?」 ほんの一瞬だけ、彼の頬が自然と緩んだ。 「彼女は僕の婚約者ですから」
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2631人が本棚に入れています
本棚に追加