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「……」
目を軽く見開き、口を開きかけた奥様から、すぐに言葉は返ってこなかった。
「依頼を受け、部長の身辺を調査していたら、ある女性の存在が浮かび上がった。それが彼女」
微動だにしない奥様を見据え、言葉を続ける神崎くんは、一度だけ私に視線を向けた後、すぐに視線を戻す。
「『赤西部長の補佐は彼のお手つき』そんな根も葉もない噂を信じた調査業者は、それに当てはまる彼女を部長の不倫相手と決定づけ、証拠を手に入れる」
彼の手が持ち上げた封筒。その中には、私と部長が写された写真。
「2人が密会している。という決定的な証拠ではないものの、その時間、その場所から判断し、2人は何らかの関係を持っている。と、こじつけた」
スッと封筒を下ろした神崎くんは、長い首を傾け、軽く笑う。
「奥様。調査会社を選び間違えましたね」
今日の彼の言葉は、やけに冷たい。
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