少女ノ一 一部の希望

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「とりあえず朝ご飯にしよ。あたしが作ったんだから、おいしい以外の感想は禁止ね」  と、まだ敷いたままの私のお布団に、着物が乱れるのも気にせずころりと横になりました。お弁当箱を投げて寄こします。 「おかずが片寄るじゃないですか」私が困ったように言うと真弓さんは、「ごめんごめん」と手を振りました。  自由な時間。楽しい時間。  真弓さんは毎朝、その日、一日分の仕事とお薬と朝ご飯を持ってやってきます。真弓さんと一緒の朝の時間だけが、今の私には唯一の幸福でした。  学校の話。テレビで見たニュースの話。昨日見た夢の話。真弓さんは何でも教えてくれました。私は常に聞き役に徹して、外の世界の情報を得ます。私が自分の事を話そうとしてみたこともありましたが、私の世界は六畳しかなく、夢の話をしようと思っても、私の見る夢に聞いて楽しいようなものはありません。 「それじゃ、あたし学校行ってくるから」  数十分の楽しい時間はあっという間で、明日の朝まで真弓さんとは会えません……。私の一日は九割八分が憂鬱でした。残りの一分が真弓さんで、もう一分が――  私は敷布団の下から一冊の本を取り出しました。
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