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風と共に、新しい畳の匂いが鼻にかかりました。人の動く気配がして、同時に蒲団が翻りました。部屋の隅の方です。私が振り向いたときには、もうこちらに向かって直志さんが歩いてきていました。
「そういう事を言うものじゃないよ。血は繋がっていないけれど、今は同じ部屋で寝起きをする間柄だ。この子が勘違いするのも無理はない」
今は? 勘違い?
私には直志さんがいったい何を言っているのか、分かりません。ただ、ぼんやりと考えていたことは、血が繋がるとはなんだろうな、いつになったら私の血は繋がるのかな、などということでした。
「直志は平気なの? こいつのせいで父さまは私たちに辛くあたるのよ。こいつがいなければ、きっと父さまは優しくしてくれるんだわ」
「父さまが厳格なのは俺たちのためを思ってのことだよ。将来、俺たちは久々宮家を背負っていかなければならない」
「だからって、こいつがかわいがられるのは納得できないわ。私たちが武術の稽古で痛い思いをしてるとき、こいつは浩助の所で紅茶なんか飲んでるらしいじゃない」
「紅茶なら、今朝の会食で飲んだはずだけど……そんなに飲みたいの?」
「そういうことを言ってるんじゃない。あんな堅苦しい思いをして飲む紅茶が美味しいものですか! いい? 私はこいつがいい思いばっかりしてるのが気に入らないのよ!」
透子さんがそう言うと、直志さんは少し考えるようにこめかみを押さえ、「お前は今、幸せかい?」と私に尋ねてきました。私は少し思案して、「いいえ」と答えました。
「ふざけないで! あんたはいったい自分を何だと思ってるの? 化け物の――」
透子さんがいっそう大きな声で怒鳴ったと思うと、急に勢いをなくして、部屋の一角を見つめました。
「浩助……」
透子さんが見つめる先には、今までに見たこともない、恐ろしい表情をした浩助さんが立っていました。
「残念です。直道さまの言い付けですので」
浩助さんは透子さんの手首を掴むと、そのまま寝室から引きづり出して行きました。直志さんは我関せずといった表情で、黙ってお布団に潜り込みました。
透子さんは泣いていました。
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