序ノ一 弟の件

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序ノ一 弟の件

 五月晴れの空の下、僕は四階建て校舎の屋上から、デジタル一眼レフカメラを手に、グラウンドを見渡していた。 「で? 今日のご指名はどの子かな? 美人かな? あたしよりも、美人かな?」  隣に並びかけて、フェンスから身を乗り出して双眼鏡を構えているのは、幼馴染の真弓だ。中肉中背という言葉がよく似合う、ザ・平均な高校一年生。 「うーん、多分あの子」 「あの子じゃわからん」 「相談しましょ?」 「そーしましょー」  降り注ぐ紫外線の下では、二年生の先輩方が体育の真っ最中で、フットサルを行っている。もちろん女子だ。その様を覗いている変質者的な立場に僕たちはいるわけだけれど、今更そんなこと気にもしない。 「ちょっと佐鳥に電話してみてよ」  佐鳥というのは、真弓と同じく、腐れ縁の幼馴染の一人だ。こっちは同学年の中でもやたら背が高く、細い、ザ・ひょろ長な男子だ。奴には屋上からではなく、地上の校舎の影からグラウンドの様子を窺ってもらっている。 「はいはい」  言ったときにはすでに真弓は、スマートフォンを耳に当てていた。以心伝心ってやつ?  僕は改めてグラウンドを見渡してみる。  一部の活発な女子生徒が汗を輝かせているのが目立つのは、ほとんどの生徒が授業そっちのけで好き勝手にお喋りに興じているからだ。体育教師も見て見ぬふりで、一部のサッカー少女たちと戯れている。  それでいいのか? と言いたいところだけど、僕たちにしたって、授業をさぼってこんなことをしているんだから、言えたもんじゃない。 「オッケー。分かったよ」  真弓がちょうど通話を終えたところだった。 「佐鳥、なんだって?」 「この真下。ゴールネット裏で砂山作ってる三人組の一番かわいい子だってさ」  一番かわいいって……個人差があるんじゃ? と、思ったけれど、首を伸ばして、真下を覗きこんで納得がいった。遠目からでもよくわかる。 「ああ、なるほど。一番かわいい子、ね」  砂山三人組は一人を除いて、なんというか、こう……とても残念な感じだった。一目でターゲットを特定。 「よっし。じゃあ、あたしの出番かな」真弓が大げさに伸びをして見せた。
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