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少女ノ一 一部の希望
お線香の匂いで目が覚めました。もうすぐ真弓さんがやってきます。
私はもそもそと布団から抜け出し、真っ暗な六畳間の扉の前で正座しました。錆びた金属質な音は鍵をはずす音です。扉が重々しく開かれると、赤く眩しい蝋燭の灯りが私を照らし、香の匂いがいっそう鼻をつきました。憂鬱だけど、安心する匂い。
「お目覚めでしたか」着物姿の真弓さんが開口一番そう言います。
「今起きました」
何千回と繰り返されてきた朝のやり取り。
「こちらが本日の分です。お食事がお済みになりましたら、さっそくお願いします」
そう言うと真弓さんは、何人もの写真と簡単なプロフィールが書かれたメモを正座した私の膝元にどさりと差し出しました。私はそれらをざっと確認して、「分かりました」と返事を返します。
写真にはいかにも他人の視線を気にしていそうな頭頂部の薄いおじさまや、たいそうふくよかな体型のご婦人など、見た目にも悩みが見て取れる人ばかりが写っていました。
……くだりません。最近、やけにこういった単純でばかばかしい依頼が多いです。
「最近、多いですね」
単純に量だけを見てもそうでした。私が顔を上げると、真弓さんはすでに表情を崩していて、
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