第一話

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 俺の目の前には一人の男が倒れていた。 中年なのだろう。黒い髪の毛の所々に混じっている白髪は、自分はここにいるとまるで自己主張をしているかのようだ。 女なら犯すところだったが、俺に男色の趣味はない。 男のズボンのポケットに手を無造作に突っ込む。 うつ伏せに倒れている為、いわゆる"尻ポケット"に手を突っ込んだのだが、どうやらビンゴだったらしい。 「…少ねぇなあ。まあ…こんな"腐ったところ"に居る奴が金なんて持ってるわけねぇか。んじゃまぁ、こいつは頂いていくぜ?」 俺は手に持った麻袋の中身だけを取り出し、自分のポケットに入れる。 中身の無くなった空袋は倒れている男の背中に置き、踵を返す。 銅貨10枚。つまり銀貨1枚分の収入。 「大金ってわけでもねぇが、"ここ"で一人叩いて銀貨1枚なら上々だな」 俺はこの金の使い道を考えながら、目的もなく歩く。 先程奪った銅貨10枚に加えて、以前から奪い貯めてきた金もあるため、それなりにはある。 「"牢獄"から…出てみるかねぇ?」 俺は誰に言うわけでもなくそう呟くと、歩を早めた。  この寂れ、まともな人間が寄りつくような場所ではなくなった町は、いつしか"牢獄"と呼ばれるようになっていた。 この町に存在する全ての建物は著しく崩壊している。 屋根も玄関の扉もないが、壁だけは生きている建物や、屋根があっても壁が崩壊している建物。 当然店なんてものは一つもない。昔は店を開いていたのであろう建物なら存在するが。 とても人が住めるような町ではない。だがそこを住処にする人は少なくはない。 単刀直入に言ってしまえば、この"牢獄"は犯罪者の巣窟だ。 殺人者や盗人、強姦魔など様々な犯罪者が集っている。 普通の町に潜んでいる犯罪者も居る。だがしかし、ここを住処にしている犯罪者達は"普通の"犯罪者ではない。 "大罪人"と呼ばれる程まで罪を繰り返しているような犯罪者達が集うのだ。 犯罪者の住処になっているから、"牢獄"。 単純なネーミングセンスだが、的を得ているようにも見える。
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