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「あーそうだ、俺もう一つ困ってることがあってさー?田舎から出てきたのはいいけど何も持たずに飛び出してきてよ、無一文なんだわ。だからさぁ」
対峙していた男の懐に一瞬で潜り込み、腹部を殴る。
男は呻き声をあげ、手に持っていたナイフを落とす。
俺は追撃にアッパーを叩き込む。
男の体は面白いように浮き上がり、そのまま地面に打ち付けられると意識を失ったようだ。
「お前らの持ってる金くれよ」
「ア、アッパーで宙に舞った!?嘘だろ!?」
少女を抑えている男は、俺を唖然と見つめている。
「本気で殴ったわけじゃないんだがな。見た目だけか、お前ら」
「ひ、ひいぃぃ!?」
先程の俺の動きを見て、俺の方が格上と判断したのか。
男は体を硬直させていて、俺が男に向かって歩を進めると怯えたような声をあげた。
「これじゃ…どっちが悪党かわかんねぇな?」
こいつらは殺し合いというものに慣れていない。
日頃から体は鍛えているが、力を振うのは精々喧嘩くらいなのだろう。
"喧嘩慣れ"している人間と"殺し合い"に慣れている人間。
どちらの方が強いのかは、火を見るよりも明らかだ。
「なっなんなんだおまえはぁっ!」
男はようやく落ち着きを取り戻したのか、俺が一歩進む度に一歩後ろに下がる。
男は少女を片手で抑えながら、もう片方の手を背中に回した。
そして、その片方の手は俺に向けられた。その手には拳銃を持っている。
この男は少女を置いて逃げるのではなく、俺と戦って少女を誘拐する事を選んだようだ。
「銃口が震えてるぜ?」
「う、うるせえ!これ以上近付くな!撃つぞ!」
「撃てばいいだろ?」
俺は歩みを止めない。
拳銃を持ってこそ居るが、撃ったことがないのだろう。
震えた手では照準も満足に定まらない。狭い路地とはいえ、ロクに照準も定めていない拳銃なら避けることは容易い。
何より、撃ったことがないということは殺し合いをしたことがないということ。
そんな人間に俺が負けるわけがない。負ける理由がない。
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