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「今までお前が対峙してきた奴はそいつを出せばビビってくれたんだろうが…世の中にはそんなもんじゃビビってもくれない人間もいるってことを覚えておいた方がいいぜ?」
「う、うるせえ!撃つぞ!」
「だから…撃てばいいだろ?」
"誘拐"という罪を犯しておきながら、人を殺める事に抵抗がある。
中途半端なのだ、こいつは。
途端にアホらしくなる。
こんな奴相手にしてても時間の無駄だ。さっさと金を奪って終わらせよう。
「引けないんだろ?誘拐は出来ても人を殺す事はできないってか?」
「舐めんじゃねぇ!」
「遅ぇんだよ」
男が引き金を引くまでの一瞬の間に間合いを詰め、男の顔面を殴る。
その際に少女が男と共に倒れないように少女の腕を引く。
男は立ち上がらない。
全力で殴ったわけでもないのに、意識を失ったようだ。
「さーて、金っと…」
倒れた男が手放した拳銃を足で踏みつぶし、俺は倒れた男のポケットを物色する。
ズボンの前ポケットにも、後ろポケットにも。
上着のポケットにも金は入っていなかった。
「なんだよ…こいつも俺と同じで一文無しかよ。んじゃあもう一人はっと…」
「あの…」
男が金を持っていなかった事に落胆しつつも、そういえばもう一人居たなともう一人の物色をしようとしたところで声をかけられた。
誘拐されそうになっていた少女だ。今回の被害者である。
「何をしているんですか…?」
「見てわかんないかね。いわゆる追剥ってやつ」
「お、追剥って…」
「…こいつも無一文かよ。世知辛い世の中に涙が出るねぇ」
もう一人も前の男と同様に無一文であった。
金に困ったから誘拐をしたのだろう。誘拐犯によくあるパターンの一つだ。
一応鍛えているっぽいからギルドとやらで稼げばいいのに、楽して稼ぎたいっていう考えなんだろうか。
「取るもんなんて何もなかったし、俺は追剥未遂犯ってことで。俺はギルドとやらに行くから、お前とはここでお別れだ。もう誘拐なんてされるんじゃねーぞ」
ギルドが何処にあるのか知らないが適当に歩いていればその内着くだろうと、酷く楽観的な思考をする。
俺は少女に背を向けてひらひらと手を振りながら歩き出したが、腕を掴まれその場で足を止めた。
この場に居るのは俺の他にもう一人しかいない。つまりは必然的に俺の腕を掴んだのはもう一人になるわけで。
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