第一話

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 宿に着いた俺は、10年振りの布団の感触に感動していた。 "牢獄"での生活のお陰で、俺は基本的にどこでも寝れる。 だがしかし、やはり寝る場所は快適な方が良い。 布団に横になりながら、ふと考える。 俺、何か忘れてないか?と。 「あー…あのガキども連れてくんの忘れたわ」 "牢獄"で数年間ずっと一緒に過ごしてきた少女達を連れてくるのを忘れたのだ。 というか、存在すら忘れていた。 彼女達の存在がどうでもいいとかそういうわけではなく、寧ろヴァイスに取っては大切だ。 「"牢獄"の銅貨10枚野郎のせいだな。あいつが銅貨10枚しか持ってねーからそれに気を取られて忘れてたんだ。あいつ次会ったら半殺しじゃ済まねえ」 もう会う機会はないだろうが、非常に理不尽な言い分である。 自分でも原因はわかってる。 それは、外の世界への憧れ。 ヴァイスは"牢獄"で産まれたわけじゃない。元々はこっちの世界の人間だ。 だがしかし、ある理由からヴァイスは"牢獄"で生活するようになった。 長い間"牢獄"で過ごしてきたヴァイスは、いつもと変わらない日常に飽きていた。 退屈していたのだ。変わり映えしない日常をずっと続けて。 そんな時、"牢獄"の外は今どうなっているんだろうと考えた。 "牢獄"の人間は外の世界の人間には受け入れられない。 "牢獄"出身、"牢獄"育ちというだけで批難され、虐げられる。 それを知っていたヴァイスだからこそ、その時は"牢獄"から出なかったが… 「別に何か切っ掛けが有ったわけじゃねえがな」 ただの気まぐれだ。 あの時は出なかったが、今回は出た。 そこに切っ掛けなんてものは存在しない。 ヴァイスは罪人だ。 例え"牢獄"で犯した罪でも、その罪は計り知れない。 場所は関係ない。罪は罪だ。 「アリスティアとかいうのも、俺が何者か知ったら幻滅するんだろうか」 当然だろう。罪を犯していない"牢獄"出身の人間でさえ、この世界では虐げられるのだから。 人々の"牢獄"に対する偏見は、相当なものだ。 「ごちゃごちゃ考えても仕方ねえな。なるようになんだろ。寝るか」 バレたらその時は"牢獄"に戻ればいい。 それまでの間、こっちの世界で楽しむことにする。 それだけだ。
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