プロローグ

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 物心がついて最初に教わったのは、自分が生きる価値の無い出来損ないだということだった。 生きる価値というのも、出来損ないの言葉の意味も当時の自分には難し過ぎて全く理解できなかったが、父の表情から悪い事だという事を悟った。 物心がついた頃なんて、両親に甘えたい年頃だ。 甘えたくて両親の元へ行っては、頬を叩かれた。 お前など息子ではない、出来損ないが近寄るな、などという罵声をいくつも浴びせられた。 そんな日は部屋に戻り、声を殺して泣いた。 わけがわからなかった。どうして双子の弟であるソルは両親に甘える事が許されて、自分は叩かれて怒鳴られるのだろう。 ソルの部屋と比べると、酷く狭く、まともに掃除もされてない上に照明器具すらついていない自分の部屋の隅。 両親に怒られる度に、いつも僕はそこでうずくまって声を殺してひたすら涙を流した。 震えを隠しきれなかった。 僕は両親が大好きだったから。 厳しいけれど、家族にだけ見せる笑顔はとても優しさに満ち溢れている父。 誰にでも優しくて甘い、でも間違った事はちゃんと正してくれる美人な母。 だから震えた。 そんな両親に厳しいを超越し、もはや虐待ともいえるような態度をされることが、とても信じられなかった。 きっと、何かあって機嫌が悪かったんだ。明日は大丈夫。 泣き疲れて眠くなり、意識を闇に落とす前にいつもそう自分に言い聞かせるように胸の中で思う。 明日は、優しく抱きしめて貰えるだろうと――  明くる日も明くる日も、僕は両親の所へ行っては、罵声を浴びせられ、叩かれて蹴られた。 罵声の内容はいつも同じだ。 出来損ない。 価値がない。 言葉の意味がわからなかったが、僕は自分が出来損ないと価値がないという言葉が当てはまる人なんだろうと思った。 そうして部屋に戻っては泣き、そして眠る毎日。 食事は1日に1回、朝起きると部屋に置かれていた。 いや、置かれていたという表現は正しくない。 ひっくり返ったトレーに、恐らく中にスープが入っていたであろう小さな器。そして床に落ちたパン。 部屋まではトレーで運んで、部屋に付いたら置くのではなく投げ捨てられているのだろう。 当然スープは床に染みているので飲むことはできない。 床に落ちている、一口サイズのパンが僕の食べる事の出来る1日の食事だった。
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