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ある晴れた日のこと。
父が外に行かないか、と僕に声をかけてきた。
遂には僕が居ないものだと扱い始め、父も母も弟も、家に居るお手伝いのメイドさん達も僕の事を無視しはじめていたというのに、父から声をかけてきてくれた。
僕は嬉しくて、思わず涙した。
父はいつもと同じく不機嫌なそうな顔だったが、僕が行くことを伝えると、口の端が吊り上った。
母や弟に向ける笑顔とは違ったが、僕にとっては些細なことだった。
僕は、父が僕に向かって笑いかけてくれた事が嬉しくて嬉しくて仕方なかったのだ。
その笑顔の意味を知ったのは、すぐの事だった。
父の背中を見ながら、僕は歩いていた。
僕は最初父の隣を歩いていたが、すぐに隣を歩くなと怒られ、少し後ろをついてくるように言われたのだ。
隣を歩けない事は残念だったが、それでも父と外出なんて産まれて初めてだったから僕はとても気分が良かった。
嬉しくて、父に色々話しかけた。
父はいつものように罵声を浴びせる事はなかったが、しかし父からの返事はなかった。
かなりの距離を歩いた。
既に陽は落ちていて、もう間もなく夜になるという頃。
ようやく目的地に着いたのか、父が足を止めた。
「父さん、着いたの?僕疲れたよ」
相変わらず父は黙っている。
辺りを見渡す。暗くて辺りの風景は鮮明には映らないが、自分の家の周りとはまるで違った。
崩壊した建物。ゴミが散乱している路地。
人が居るとは思えない。もはや町と表現していいのか分からないが、とても寂れた町であった。
「居るのだろう?約束の物を持ってきた」
父がそう言った瞬間、崩壊した建物の中や路地の裏から大人の男が3人、姿を現した。
3人ともいやらしい笑みを浮かべていて、皆一様に僕の事を見ていた。
僕は怖くて父の後ろに隠れたが、父に首を掴まれ、3人の元へ放り投げられる。
受け身が取れず、痛みに悶えていると、僕は3人に囲まれていた。
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