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もうすぐ陽が落ちるという頃。
俺は"牢獄"から数キロ離れた町に辿り着いていた。
"牢獄"とは何もかもが違う。
幼少期に過ごした町であるはずなのに、初めて見たような感覚を覚える。
この町"クレスタ"は俺の生まれ故郷であり、産まれてから物心が付くまで過ごした町だ。
あれから12年経っている。
街並みが変わるのは当然であり、それだけ離れていればそのような感覚を覚えるのは無理もないのかもしれない。
「さて、と…どうすっかな」
"牢獄"から出たのはいいが、行く宛もなければ目的もない。
"牢獄"でずっと過ごしていたから、俺には一般常識もなければ教養なんてものもない。
"牢獄"のような生き方が他の町では通用しないということだけは知っていたからこそ、どうしていいかわからない。
「いやぁ!離してください!」
「黙れ!人が来たらどうすんだ!」
「口を塞げ!邪魔が来ねえうちに連れてくぞ!」
途方に暮れていると、少し離れた所からそんな会話が聞こえてくる。
声がする、ということは人が居るのだろう。
この町で生きていく上でどうしたらいいかわからないし、誰かに聞くのが一番良いと考え声がした方向へと歩を進める。
路地を入り込んで行くと、3人の人影が見えた。
抵抗する1人の人影と、その抵抗を背後から抑えるように片腕を掴み口を塞いでいる影と、もう片方の腕を引っ張っている影。
その図は嫌がり抵抗する子供を無理矢理病院に連れて行く図のようで、必死に抵抗しているが、余程の力の差が無い限り2人相手に勝てるわけがない。連れて行かれるのも時間の問題だろう。
間違いなく穏やかな雰囲気ではない。
首を突っ込むか悩むが、声を追って来た理由が話を聞く為である。
聞くだけ聞いて、後は勝手にやっててもらうか。
「ちょっと聞きたい事があるんだけどいいか?」
「あ?なんだテメェは!?」
「クソ!見つかっちまったか!おい、お前はこいつを抑えてろ!俺がこの男をどうにかする!」
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