雄獅子、眼光鋭く

2/13
前へ
/29ページ
次へ
灰色の(グレーキャンバス)はどこまでも。 空いっぱいに撒き散らされる、鮮やかさが失われた空を見上げる格好で、一人の女性が転がっていた。 上下ともジャージ姿で、自由な方向に撥ねた短髪。意味もなくほぅと息を吐くその姿には、気力というものがまるで感じられなかった。 「あー……」 見上げた先は、まだ昼過ぎだというのに、今にも雨を滴れそうな暗い空。ねずみに例えられた色が、そのまま垂れて落ちてきそうだ。このような空を見上げ、気持ちが盛り上がる人間はそう多くないだろう。 だが彼女は、この空が嫌いではなかった。むしろ、そう多くない人間の側にある。白にも黒にもなりきれない中間の色は、何をも決め(あぐ)ねた自分にどこか似ているようで、親近感のようなものを抱いてしまうのだ。 湿気を含む空気を胸いっぱいに吸い込む。そしてそれを一気に、声を乗せて吐き出した。 「……暇だ!!」 往来に人の姿は見当たらなかったが、突然の大声に驚く者はいたらしい。 近くの木から、名も知らぬ小鳥の群れが一斉に飛び立っていった。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加