雄獅子、眼光鋭く

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遠くでチャイムの音が鳴る。 いつの間にか眠りかけていた女性は、目を擦りながら身を起こそうとした。 ――直後、天と地がひっくり返り、後頭部に鈍い痛みが走る。夜でもないのに星が飛ぶ。突然の状況を理解できず、女性は半ばパニック状態になりかける。 「……大丈夫? 何やってんだか……」 逆さになったまま混乱していると、上方――今は足のある側だ――から、聞き慣れた声が聞こえた。間もなく女性は正気を取り戻し、ずるずると地面に全身を下ろすと、胡座をかいた姿勢に移った。 ようやく自分がどうなったのかを理解した。ベンチ一つを丸々占領して横になっており、起きた時に体重移動を失敗してこうなったのだ。そして、そもそもこんな場所で転がっていたのは…… 「やっと来た、ナトくん! 待ちくたびれた!」 「その待った時間の一部は、日乃が電話に出ないから必要になったんだろ。結構探したんだぞ」 「なにおーう!?」 女性――杉戸 日乃(すぎと ひの)は、声を掛けてきた男性――真木 成時(さなぎ なと)に掴みかかろうとして、ふらついた。頭を打った後遺症だろうか。慌てて手を掴む真木のおかげで、どうにか転ばずには済んだ。 「危ねーなぁ。まだ寝てんの?」 「う、うるさいなぁ! ……でも、ありがと」 咄嗟に掴んだその手を、しっかりと握り直す。真木の頬に、スポイトで垂らしたような薄い朱色が滲んだことに気付き、杉戸はいささか機嫌を良くした。 「さ、帰ろ帰ろ。帰りにパフェ奢ってくれるんだよね!」 「そんな話は知らん。帰ろうって話に寄り道の要求を混ぜるってのは一体どういうことだ」 そうして交わされる他愛のない言葉、その連続から成される会話。特筆することもない日常の風景を繰り広げながら、二人の影は帰路を辿った。
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