雄獅子、眼光鋭く

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無為な日々を嘆く彼女も、今は上機嫌だ。駅で真木と別れた帰り道、今は腹の中に収まっている特大パフェの満足感を思い出しながら独り歩いている。 (あーんしてくれたの嬉しかったなぁー……ぬへへへ……) 傘を叩く雨音もリズムを刻むようで、妙に心地よい。 デートとスイーツの記憶。この要素だけを取れば、彼女に欠落していると思われる、所謂『女子力』というものに繋がるかも知れない。だがその実は、思い出しながらニヤニヤする姿に、とても二人で食べるサイズではない文字通りの〝特大〟パフェ、そして『女子力』とはおおよそ無縁な上下ジャージ姿である。要素と実状のコントラストは、調和せず見事に後者が前者を上塗りしていた。 (にしても、随分遅くなっちゃったなー……) パフェは無事平らげたものの、流石にあの大きさを食べ尽くすのにはそれなりの時間を要した。杉戸は人より食べる量に自信があったが、かといって早食いが得意なわけではない。 結果として電車に乗る時間も遅くなり、気付けば夜もかなり遅い時間になっている。元々悪天候で暗かった空に星明りはなく、黒ベタの深淵が広がっていた。 それどころか、今日は妙に視界が悪い。街灯は確かに灯っているのに、少し先になると全く道が見えない。数年も通い続けて慣れた道のはずが、今まで感じたことのない不気味さを放っていた。 (早く帰ろう……) 目の前に小さな橋が見える。用水路の上にかかった歩行者専用の短い橋だ。ここを渡れば家は目前。杉戸は小走りで道を急いだ。
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