雄獅子、眼光鋭く

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(変だ……) 杉戸はすぐに異変に気がついた。普段なら数十秒もあれば通り抜けられるはずの橋が、未だ渡り終わらないのだ。時計を見たわけではないが、もう数分は歩き続けているように感じる。 無論、どう考えてもそれだけの時間渡り続けられる長さの橋ではない。 おかしいのはそれだけではない。橋の端――頓智や冗談などではなく真面目に、終点が見えないのだ。振り返ると始点も見えない。あってないような長さの橋なのに、その中央で杉戸は道を見失っていた。 (何……何、なんなの……?) 先の幸せ気分は一転、恐怖へと変様していく。降り続く雨ではない、冷たいものが頬を伝った。 早く帰りたい、帰らなきゃ。でも帰れない。パレットの中へ様々な色をぶち込むように、思考は恐怖によって乱雑にかき混ぜられていく。 「嬢ちゃん、ちょっといいか?」 「い……っやあああぁぁぁぁぁぁ――――っ!!?」 高まっていた感情は、不意に掛けられた声によって頂点に達した。夜の住宅街であることなどお構いなしに、杉戸は感情を絶叫に乗せて爆発させる。思考は完全に停止し、傘も鞄もその場に投げ捨てると、全速力で走り出した。
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