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金属の摩擦音と共に電車がホームに停車する。大勢の人間が詰め込まれた箱の扉が開き、大勢の人間がそこから溢れ出す。よくある都会の駅の雑踏。こんなものは好きな人間はいるわけはなく、ただみんな生活のために我慢しているだけだ。まったく、本来の人間の姿からはかけはなれているな、と八尋速人は思った。思ったが考えをやめる。本来の人間の姿なんか知らない。隣にいる福永達也を見ると同じようにうんざりした表情をしていた。
二人は中央線西国分寺駅で電車を降りていた。S&Sカンパニーの入社試験に合格し、新人研修を受けにやってきたのである。四月の春の日差しが彼らの二人の顔を照らしていた。
改札口を出て雑踏に足を踏み入れる。午前九時ごろだったが大勢の人間で駅前は溢れていた。北へ南へ東へ西へ。うっとうしいことこの上ない。研修所はここからタクシーだと五分くらいの場所にあると案内書には書いてあった。
「しかしニコは相変わらずだな。こんな日に遅れるなんて」
電車の中でニコから遅れる旨のメールをもらった達也が言った。
彼らは三人とも就職試験に合格したのである。速人にとっては、達也はともかく自分やニコがすんなりと受かったことが信じられなかった。就職なんて意外と簡単なもんなんだな、とつい思ってしまう。
「あいつなら大丈夫。そのうち現れるよ」
「とりあえずタクシーに乗ろうぜ。歩いて行くのは面倒だ」
しかしそこから一瞥しただけで、タクシー乗り場には人がたくさん並んでいるのがわかった。
「あれを待っていると確実に遅れるな」
速人はうんざりしながら言った。
「じゃあ歩くしかないのか。仕方ない。いい運動だと諦めよう」
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