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達也も列を一目見て諦める。案内の地図で場所を確認する。歩いても三十分かからないので、集合時間の十時には充分間に合う。駅から向かって右側へ二人が足を進めると、右手にコーヒーのチェーン店があった。その店の前で一人の女性が大きなボストンバッグを一つは右手に持ち、一つは地面に置いて眉をひそめながら、件のタクシー乗り場を困ったように見ている。年齢は二十代半ばだろうか。ほんのりと薄く赤茶色に染まった髪にはウェーブが掛かっている。その先端は胸の当たりまであるロングヘアー。顔立ちは整ってはいるが、きつそうな雰囲気はなかった。少しだけ垂れ目のせいか、どこか母性を感じさせた。スーツの上からでもわかる豊かな胸、太ってるわけでもないが痩せてるわけでもなく、メリハリのある女性らしいプロポーション。身長は百六十くらいで肩幅が意外と広い。完璧な美女ではないが、それがまた魅力的だった。
達也が速人の方を見て、すぐに彼女の方を見て、また速人を見る。そして笑いながら言った。
「あれは多分、同じところに行くとみた」
「素晴らしい推理力だと言いたいが、多分十人中、九人くらいはそう言うと思うぞ。それに彼女だけじゃない。よく見ればたくさんいるよ。ほら、あそこにいる男もそうだし」
「そいつらは俺の目には見えないよ。よく見ろよ。お前の言いぐさじゃないが十人いたら八人は声をかけるぞ、きっと」
「残りの二人でもいいんだけど」
「バカ、あと二人はホモとマザコンだ。俺たちは違う。大体、困ってる女性を助けるのは男の義務でしょう」
「困ってる美人の間違いだろ」
進行方向なので自然と近付いていく。どうやら女性は荷物がたくさんあり過ぎるようだ。近付く速人と達也に気付いたようだった。
「もしかして君もS&Sの新人研修?」
達也がごく自然に話しかける。同時に新人研修の案内書類を彼女に見えるようにかざした。
彼女は書類をチラリと見てから答えた。
「うん、そうよ。あなたたちも?」
「同じだよ。さっき電車からおりたところ。タクシー拾おうとしたらこの始末でしょ。どうしようかと思ってたら、君が見えてさ」
「わたしも同じだわ。まったく嫌になっちゃう」
そう言いながら彼女は周りを見渡している。
「俺たちも行く先は一緒だからさ、歩いて行こうと思ってたんだけど、一緒に待っててもいいかな?」
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