第2話

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「別にいいわよ、でもこの分だと初日から遅れちゃいそう」 「俺は福永達也、こっちは八尋速人」  紹介された速人は軽く会釈する。 「わたしは上本茜。よろしくってとこなのかな」  小さく笑いながら彼女は二人を均等に見た。  達也が満面の笑みで素早く彼女の隣につく。〝はい、一丁あがり〟という声が聞こえてきそうだ。速人は軽く苦笑いする。  タクシーを待つ行列は一向に進む気配はない。三人は十分ほど話をしながら待っていたが、自然と全員が共通の判断をする。 「駄目だね。これを待ってたらとんでもない遅刻になる。歩こう」  速人が最初に言った。 「うん、その方がいいみたいね」  茜は地面に置いていた荷物を手に取りながらうんざりした様子で同意する。  三人は研修所の場所を地図で確認した後、歩き出した。  茜は二つのバッグを持っていて、かなり重そうだった。どうしても二人は歩くスピードを抑えなければならない。仕方ないと思い、速人は達也の顔に目を向ける。同じことを思っているようだった。 「それ結構、重いでしょ。よければ俺たちが少し手伝おうか」  達也が尋ねる。 「大丈夫、自分で持てるわ」  強がりなのか、見知らぬ他人に荷物を委ねるのが不安なのだろう。 「遅れちゃうよ」  速人は黙って手を差し出した。見知らぬ他人に荷物を委ねる不安と荷物の重さとが戦った。 「ありがとう、じゃあお願いしちゃうね」  どうやら重さが勝ったようである。速人は重そうな方のバッグをさりげなく受け取る。バッグを片手で持ったが凄い重量だった。何が入ってるのやら。こんな物を二つ持ってどうやってここに辿り着いたのか知りたくなったくらいだ。 「凄く重いけど、引っ越しでもする気だったの?」 「一ヶ月も研修なのよ。それでも最低限まで荷物を減らしたの」  やれやれ、女というやつは。速人も達也もスポーツバッグ一つだ。もう一つを達也が受け取り、また歩き始める。  前に茜と達也が並んで歩き、その少し後ろを速人がついていく形で三人は研修所へ向かった。  スーパーや個人商店が道路の両側に幾つかある。駅から少し離れれば都内でもそんなに都会的ではない場所だった。個人経営の居酒屋などを見るとその思いはますます増していく。
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