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すると一台のタクシーが速人らの近くで停止した。
中から窮屈そうに一人の大男が出てくる。
身長は百九十センチに少し欠けるくらい。均整の取れた体つきでスーツの上からでも一目で鍛え抜いたであろうことがわかる。坊主頭で眉間に皺を寄せているので、かなりの強面に見える。荷物はバッグ一つだけしか持っていない。
「間に合ってよかったな、ニコ」
男に気が付いた速人が声を掛けた。
その男、田上雅夫は無表情な顔で速人に近付いた。彼を知るものにとってその鉄面皮はほとんどトレードマークとなっている。そして彼は親しい友人にはニコという名で呼ばれていた。その由来を知るものはそんなに多くはなかった。
速人も一旦、自分の荷物を地面に下ろし、ニコに近付く。
そして、二人とも自分の片手が相手の背中を叩くようにして抱擁する。
戦友との間にはつきものの挨拶だった。思い切り背中を叩くのでかなり荒っぽく見える。スーツ姿の二人がそれをやっているのはある種滑稽に見えた。
ほんの数ヶ月会ってないだけなんだけどな、と速人は苦笑する。強く叩かれた背中が少し痛いが、けして不快な痛みではなかった。命を預け合った仲間との強い絆をそこに感じることができた。
「危ないところだったがギリギリセーフだ」
地の底から聞こえるような低い声でニコは言った。そしてニコは達也らとも挨拶を交わす。茜は少し驚いたようだったが、無理もないことだと速人は思った。知らない人が見たら、どう見たって普通の若者には見えない。
そこで速人は彼がタクシーで来たことに思い至った。
どうやって間に合うようにタクシーに乗ったんだ?
ニコは必要がなければ行列を乱すような男ではない。見た目は怖いが、ならず者では決してなかった。
必要がなければ。速人はそれ以上考えるのをやめた。
「ちょっと待ってて。受付に聞いてくる」
達也が足早に入り口の右手にある守衛室へ向かう。そこで何か書類をバッグから出し話をしている。そのうちに待ちきれなくなったのかニコも達也の側に歩いて行った。
少し離れた場所で茜と速人が二人で待っていると、茜はスーツのポケットからメモとペンを取り出し素早く何かを書き記した。
「これ、あたしの連絡先。きっとここで一ヶ月は退屈だよ。一緒に遊ぼうね」
何気ない様子で笑いながらメモを速人に向けて差し出した。達也はまだ守衛と話をしている。
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