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海から最初の生物は生まれたという。その生き物も海からやって来た。下半身はタコに似た八本から十本の足が生え、上半身はまさしくカニだった。従来のカニと違うのは四本のハサミを持ち、背中に透明なゲル状の袋を全ての個体が背負っていた。身長は足が地面に広がった状態で二メートル近くあった。体重は二百キロを超す。接近すればそのハサミで人間なら真っ二つにされてしまう。
その危険な生物はいきなりオーストラリアとノルウェーの沿岸部に現れた。数百匹の奇妙で巨大なカニの群れがいきなり海岸から町に上陸し、大混乱と化した。それぞれの町の警察組織もあっという間に駆逐され、町は数時間でカニに占拠された。軍隊も出動し、爆撃でカタをつけようとしたが、偵察隊が持ってきた情報がその決断を困難なものにする。カニの背中にあるゲル状の袋に捕らえられた人間が入っているという信じられないような話だった。透明なので外からでも見えるのだが、確かに動いている人間もいて、まだ生きている可能性が高かった。それに加えカニはその袋を切り離し地面や建物の壁などに立て、人柱のようなものを町のあらゆる場所に作っていた。
生きた人間をカニが盾にしている。本能的な物であるのか、悪魔が知恵を授けたのかは、今に至っても分かっていないが、その不思議な人柱のために昔ながらの陸上戦力、歩兵隊が出動することになる。完全武装の歩兵隊なら、ヤツらと互角に戦えた。士気も高かった。現代戦において歩兵隊が存分に力を発揮する機会はほとんどない。しかも相手が人間ではなく未知の怪物。シチュエーション的には最高だった。カニの甲羅は硬いがアサルトライフルやマシンガンなどで十分打ち破れた。真正面から数人で弾幕を張ればカニも近付けなかった。
しかし運悪く最初に派遣された部隊は、カニにも飛び道具があることを知らなかった。ハサミの付け根、二本の爪の間に直径五センチほどの空洞があり、そこからカニの体内で硬質化された物質が、銃弾ほどではないが、人から命を奪うには十分なスピードで発射されたのである。防弾チョッキなどで防護しても助かる可能性は半々より少しましな程度であった。
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