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そろそろ新しい何かをはじめなきゃな、と八尋速人は思っていた。とりあえず現状は安定した仕事を失ったわけだ。今はまだささやかな貯金があるから大丈夫だが、そのうち尽きるだろう。しかし何をする?
速人は有名な大学を中退し、海兵隊に入隊した。そして戦いに行き、今に至る。正直、何ができるのか見当もつかないというのが本音だった。
死んだ方がよかったかな、と思う時も彼にはあった。しかし思った瞬間、打ち消す努力を始め、自分が生き残るために散っていった命があるのを思い出す。さらに憂鬱になるが、それでも生きる力をそこから絞り出そうとしていた。その繰り返しを続けてきたが、もう終わりにしたいと彼は思っていた。
もう普通に生きなきゃ。
時計を見るともうすぐ午後三時になろうとしていた。そろそろだ。数時間前に友人の福永達也から三時ころに家に来るという電話があった。達也は週に五回は速人のところに様子を見に来る。病院に行くのも、酒に溺れて延々と続く愚痴の海で泳ぐのもずっと付き合ってくれている親友であった。年齢は速人が二十五で達也が二十六だが学年は変わらない。幼馴染みとかではなく知り合ってから一年に満たないが、出会いが特殊な状況だったため昔ながらの親友のような存在になっていた。
チャイムも鳴らずにガチャッとドアが開き、勝手に達也が部屋に入ってきた。
「あら、おはよう。何も食べてないだろう?」
そう言ってコンビニ弁当の入った袋を軽く持ち上げる。
「おはようじゃないよ。とっくに起きてる」
速人は無遠慮にその袋を掴み取り中身を見る。速人は確かに朝から何も食べていなかったので空腹だった。買ってきてくれた弁当を食べながら、昨日の野球がどうだのと他愛のない会話を始めた。ほとんどいつもと同じ流れだった。
「速人さ、これからどうすんの? 仕事とかさ」
「何かしなきゃとは思ってるんだけどさ、よくわからない。雇ってくれるところがあるといいんだけどな。ただの戦場帰りだからなあ、俺」
「まあまあ、そう言うなよ。確かに役立たずだけどさ。向こうじゃあんなに役に立ってたのにな」
「役立たず言うな。確かにそうだけど」
速人は苦笑しながら言う。
「実は今日は耳寄りな情報を持ってきたんだ。これ見てみて」
達也は尻のポケットからネットからプリントしてきたらしき折り畳んだA四の紙を取り出し、広げながら手渡した。
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