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「S&Sカンパニー? ああ、最近よくTVCMやってる会社だろ。何か冴えないおっさんが歩いていて、画面にキーボードのSHIFTキーが出てきて、急にスーツ姿のビジネスマンに変わるやつ。大企業じゃん。何やってる会社か知らないけど。まあ俺には縁のないとこだろう。お前が受けるの?」
「そうじゃないんだ。ここ金融とか物流とかネットビジネスとか色々やってる会社らしいんだけどね、帰還兵とかを一定の割合で雇用してるらしくてさ。こないだ国から勧告があったじゃん。そのお達しをちゃんと守ってるらしい。それでどうかなって思ってさ」
速人は軽く頷きながらそのプリントを見る。特に興味は引かれないが、初任給が海兵隊で貰っていた給料より高かった。と言ってもあっちは衣食住つきだったが。少なくともこの会社ならカニに殺されることはないだろう。
「仕事の内容を選ぶ必要もないだろ? 何だってやれるよ、お前なら。俺も何だっていいしね。ニコにも声かけようぜ」
「ニコに声をかけるって? あいつが会社員? ありえないだろ。大体、試験なんか受けるとは思えない」
ニコとは田上雅夫という男のニックネームである。彼は速人の戦友で、今では速人と同じく退役している。
「実はもう連絡してあるんだ。速人が受けるならニコもやるってさ。どうせ暇だからって言ってたよ」
「それにしてもお前が受ける必要なんてないだろ。親父さんに頼めばいくらでも就職なんてできるだろ?」
達也は上目使いに速人の方を見ると同時に軽く首を傾げる。
「だったらお前のことも親父に頼んでいいか? それなら別にいいんだけど。こないだそれを言ったらダメだって言っただろ。うちの親父に迷惑かけたくないって。確かにお前はたまにとんでもないことをしでかすからな。だから探してきたんだよ。それになるべくなら俺も家には頼りたくないんだ」
確かにそういう会話をしたのを速人は覚えていた。達也の言う〝とんでもないこと〟にも心当たりがある。
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