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「もちろん、あちらは、丁重にお断りする、と言っても、谷田部側から話しを持ち込んだ手前、あちらとしても、『はい、そうですか』と、簡単にはいかないだろうが、必ず整理をつける」
それに、と、課長は苦笑を浮かべて、ぼやくように言った。
「むしろ、攻略が難しいのは、相手方より身内の方かもしれない。なにせ、あの親父は、頑固者だから……」
「そう、なんですか?」
「ああ、かなりな」
クスリと笑う、課長のその表情は、照れくさいような、それでいて誇らしいような、そんな表情だった。
「でも、あの人は、話して分からない人間ではないから」
――ああ、そうか。
課長は、伯父さんの、
お義父さんのことが、好きなんだな。
そう、感じた。
窮地を救ってくれた恩人だとは言っても、『母親の延命と引きかえに』、
そして、意に沿わぬ結婚をさせられた。
きっと、お金にモノを言わせて他人を思い通りにするような高慢な人、
谷田部総治郎氏に対して、そんな漠然としたマイナスイメージを持ってしまっていたけど、
それが、あいつ、私の天敵、谷田部凌による、巧みな洗脳だと、ふと気づく。
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