26恋慕-3

10/35
前へ
/35ページ
次へ
「もちろん、あちらは、丁重にお断りする、と言っても、谷田部側から話しを持ち込んだ手前、あちらとしても、『はい、そうですか』と、簡単にはいかないだろうが、必ず整理をつける」 それに、と、課長は苦笑を浮かべて、ぼやくように言った。 「むしろ、攻略が難しいのは、相手方より身内の方かもしれない。なにせ、あの親父は、頑固者だから……」 「そう、なんですか?」 「ああ、かなりな」 クスリと笑う、課長のその表情は、照れくさいような、それでいて誇らしいような、そんな表情だった。 「でも、あの人は、話して分からない人間ではないから」 ――ああ、そうか。 課長は、伯父さんの、 お義父さんのことが、好きなんだな。 そう、感じた。 窮地を救ってくれた恩人だとは言っても、『母親の延命と引きかえに』、 そして、意に沿わぬ結婚をさせられた。 きっと、お金にモノを言わせて他人を思い通りにするような高慢な人、 谷田部総治郎氏に対して、そんな漠然としたマイナスイメージを持ってしまっていたけど、 それが、あいつ、私の天敵、谷田部凌による、巧みな洗脳だと、ふと気づく。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

832人が本棚に入れています
本棚に追加